最新判例【ビル内事故における土地工作物責任が否定された事例】

【ビル内の飲食店で飲食した者がビル内の下りエスカレーターの手すりに接触し、乗り上げ、転落して死亡した事故について、ビルの共有者・管理者の土地工作物責任、エスカレーターの製造業者の製造物責任が否定された事例】
事件番号 | 平23(ワ)2870号 |
---|---|
事件名 | 損害賠償請求事件 |
裁判年月日 | 平成25年4月19日 |
裁判所名 | 東京地裁 |
裁判区分 | 判決 |
裁判結果 | 棄却 |
上訴等 | 控訴 |
〈事案の概要〉 | 本件は,Dの両親である原告らが,Dが,aビル(東京都所在。以下「本件ビル」という。)2階において,1階への下りエスカレーター(以下「本件エスカレーター」という。)の乗り口付近で本件エスカレーターの移動手すりに接触してこれに乗り上げ,本件エスカレーター外側の吹き抜けから1階の床に転落して死亡した事故(以下「本件事故」という。)について,本件ビルの共有者の一人でこれを管理運営する被告Y1社及び本件ビルを別の共有者から賃借して被告Y1社に管理運営を委託している被告Y2社に対しては民法717条1項の土地工作物責任に基づき,本件エスカレーターを製造した被告Y3社に対しては製造物責任法(以下「法」という。)3条の製造物責任に基づき,原告X1につき損害金4919万1603円及びこれに対する本件事故発生の日である平成21年4月8日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の,原告X2につき損害金4703万2388円及びこれに対する同日から支払済みまで同割合による遅延損害金の各連帯支払を求めた事案である。 |
〈判決〉 | エスカレーターの本来の用法からかけ離れ、通常予測し得ない異常な行動の結果、本件事故が発生したと判断し、本件エスカレーターの設置又は保存の瑕疵を否定し、前記の土地工作物責任、製造物責任を否定し、請求を却下した。 出典)判例時報2190号、ウエストロー・ジャパン |
POINT渡辺先生から一言
都心部の大規模ビル内の商業施設2階において,会食後の会社員が,エスカレーターの手すりの折り返し部分(下方向へのエスカレーターの乗り場付近のベルト部分)に後ろ向きによりかかったために,手すり(ベルト)に乗り上げ,1階フロアに転落してしまった死亡事故に関する裁判所の判断です。判決では,「通常予見されるエスカレーターの使用形態であるとはいえない」としてビル側の責任は否定されましたが,この事故は,多数の来訪者のある施設の管理にあたっては,子どもや高齢者の利用者はもちろんのこと,一般の大人の利用者であっても,想定するのが難しいような設備の利用状況が生じうることを示唆しているということができましょう。