(いしずえ94信掲載)
弁護士 寺村温夫氏
本稿では、ビル賃貸契約に伴うトラブルを中心に解説していく。ふだんの実務経験で直面した問題や興味深い事例の中から、特に一般のビル経営者やオーナーが遭遇するトラブルの対処方法を中心に実務の視点で説明を加えたい。
ビル賃貸借というのは、居住を目的とはしていない。また、その建物は元来賃貸借することを目的として建てられたものであると言える。その物件に対して、テナントを募集し、入居させる。当然、事業を目的としているので、適正な賃料をテナントから支払ってもらうことが前提となる。このように、ビル賃貸借では、経済的合理性を有する物件を扱うことになる。この経済的合理性をもつ建物と借地借家法はどのような関わりを持っているのだろうか。居住を目的とする建物と事業を目的とする建物では、基本的前提が全く異なっている。
旧借家法の時代から借家人の保護ということが強調されてきた。それは、経済的弱者を救済することを目的としていた。旧借家法で言うところの経済的弱者は借家人である。社会経済的に、貸す側を「持てる者」として強い立場としている。一方、借りる側は弱い立場である。実のところ、この弱者を保護するために旧借家法ができたのである。
借地借家法は、平成4年8月に旧借家法と旧借地法が一体化して新たに施行されることになった。従前からの旧借家法も借地借家法も、借り手が弱い立場であるということを前提としているが、ビル賃貸借にこの前提が妥当であるかどうかは疑問が残ると言わざるを得ない。例えば、賃借人が大手企業で賃貸人が零細オーナーということも十分に考えられる。
必ずしも、「貸主=強い立場、借主=弱い立場」という図式は成立しない。それでも、このビル賃貸に対して適用される法律は借地借家法である。要するに、居住目的を前提として作成された法律が事業用に転用されている。また、ビルの大小によっても適用が異なる。保証金の額、目的なども超高層ビルと中小のビルとではかなり様相が異なる。それでも法的根拠となるのは借地借家法である。借家権は事業目的のものと居住目的のものを全く区別していない。「借家権」と「賃借権」は同じことを意味している。「建物に対して賃料を支払って借りる権利」のことを「賃借権」とも「借家権」とも呼んでいる。基本的には賃貸借契約をする際、借りる側の権利を「賃借権」と呼ぶが、家を借りてしまうと同じ事を「借家権」と言うのである。
「居住権」は法律上の特別な権利というわけではない。居住権は人が居住することに対する利益を保護する権利である。これを「居住権」と呼んでいる。これは賃料を支払って建物を借りている基本的な賃借人の権利にすぎないため、「貸借権」と同じ意味である。
「営業権」も借地借家法上で特別強い権利を持っていない。ただし、明渡をする場合、一般の店舗と事務所では立退料に違いがある。オフィスの場合、立ち退きによって影響がかなりあるとは考えにくいが、店舗などには顧客がついているため立地条件はかなり重要な問題となる。また、店舗の設備はかなりの費用がかかっているため、設備に対する費用が必要になる。それでも、賃借人の営業権を借地借家法上で特別扱いはしているわけではない。
このように考えると、居住目的であっても事業目的であっても、賃貸借契約だけに注意すれば良いということが分かる。この賃貸借契約の法律的根拠は借地借家法と民法にある。
建物全部、または建物の一部の賃貸借について借地借家法が適用される。ただし、「建物の一部」といっても様々なケースが考えられる。「建物の一部」には1個の独立した部屋や、デパートの食品売り場のような単なるスペース貸しなども考えられる。
借地借家法が適用されるには、その場所が壁などで他の場所と区切られ特定された場所で、しかも固定化されている必要がある。一方、壁や間仕切りがない単なるスペースを貸したものに借家権は発生しない。
借地借家法は平成4年の8月1日に施行された。この借地借家法のベースになっているのは民法である。民法は、契約関係や取引などについて、共通の一般的な原則を決めた法律である。そのため、原則法とか一般法とも呼ばれている。商取引、個人と個人の取引、企業間の取引などのすべての契約関係(取引)に対して民法が適用される。
まず、ベースとなる民法があり、その上に民法よりも優先する法律として借地借家法が存在する。借地借家法は原則法である民法よりも優先する特別法である。一般原則に対しては特別法規の方が優先する。そのため、借地借家法が適用される場合は民法よりも借地借家法が優先しているということになる。借地借家法の条文にない事柄に関しては、一般原則の民法が適用され、借地借家法に明記されている事柄については借地借家法が優先するのである。このように法律には「一般」と「特別」という関係が存在する。
民法は契約について次のように考えている。契約者が互いに合意することを契約と呼んでいる。民法では、当事者同士の自由意志による取り決めを重視し、契約者が納得して決めたことは原則としてすべて有効な契約として認めている。これを「契約自由の原則」と言う。つまり、当事者間で結んだ特約は原則としてすべて有効ということになる。
原則として、契約についての民法の条文よりも契約者同士の納得した上での合意を優先するのである。そのため、公序良俗に反するような特別なことがない限り、契約者の自由意思が尊重される。だからこそ、問題になりそうな点を特約で明確にしておけば、トラブルを予防することができる。
ところが、民法一般の原則に対して、特別法規である借地借家法は民法とは基本的スタンスが異なる。極論すれば、借地借家法は弱者保護のための法律と言える。すなわち、賃借人を保護するための法律なのだ。
特約を例に挙げると、借地借家法では「契約自由の原則」を有しない。借りている側にとって有利な特約は認めるが、不利になるような特約を認めていないのである。このように、借地借家法は当事者同士が納得して結んだ特約事項でも内容によって、有効なものと無効なものがある。そのために実務が混乱する。
民法であれば、ほとんどのことは契約で明確にしておけば、そのとおりの効力を有する。ところが、借地借家法が適用されると契約書に明記しておいても法的に無効なものが紛れ込んでいるため、有効と無効の臨界点が曖昧になってしまうのである。従って、契約書の解釈、その他をめぐってトラブルが発生してしまうのである。
一般常識として、貸したものは返してもらえる。これは当たり前のことである。ところが、建物を2年間の約束で貸しても、2年が経過したから返してもらえるという論理は通らない。借家権が発生する場合は、2年間の約束で貸しても、返してもらうためには、貸主がどうしてもそれが必要だという正当な理由がないと返してもらえないのである。これが一般の物の貸借と建物賃貸の違いである。
借家法は大正10年にできた。当時は建物賃貸借についても一般の貸し借りと同様の基本原則を適用していた。ところが、昭和16年に借家法が改正され、貸し手に正当な理由がないかぎり、契約の更新を断ってはいけないということになった。
昭和16年は戦時中である。当時は、借家が一般庶民の家を確保する重要な手段であった。出征している兵士の留守中に家族の住まいがなくなると困るので、このような保護が加えられたのである。そのために、貸主に正当な理由がなければ、借主に続けて貸さなければならなくなった。昭和16年に設けられたこの「正当事由」が現在に至っても尾を引いているのである。
平成4年に借地借家法という法律が施行されたが、正当事由という制度はそのまま存続することになった。この正当事由という制度があるために、契約期間が満了しても貸主は当然のこととして貸室を返してもらうことを請求できなくなった。貸主は一度貸すということを決めれば、容易に返却してもらえない覚悟をしておく必要がある。そのため、貸主は将来の明渡を確実なものにするためにはできるだけ借家権を発生させないようにあらかじめ考えて建物を貸さなければならない。
借家権を発生させない方法について解説しよう。まず、期限付建物賃貸借を説明する。一般の2〜3年契約は期間が満了になっても更新することを原則としている。一方、期限付建物賃貸借は、特別な理由がある場合には、更新をすることなく権利が終了するという制度である。この期限付建物賃貸借は平成4年の借地借家法によって全く新しく認められた制度である。これは、貸主が生活の本拠として使っている自宅を転勤やその他の理由によって使用できなくなる期間中だけ貸すというものである。期限付建物賃貸借契約であれば更新はできない。
しかし、「生活の本拠」ということは貸主が自ら住んでいる家ということになる。事業用のビルというのは人に貸すためのビルである。従って、ビル賃貸借においては期限付建物賃貸借の契約はできないということになる。そのため、事業目的のビル賃貸借に期限付建物賃貸借を適用する余地は全くない。
取り壊しを予定している建物の賃貸借にも期限付建物賃貸借ができる。これは法令、または契約によって一定期間経過後に取り壊すことが明らかな場合、取り壊すまでの間だけ貸すという性質のものである。取り壊しの時期が来れば、賃借人の権利は終了する。
このケースであれば、居住目的でもないので、事業目的の建物でも使えそうな感じがする。ただし、注意しなければならないことがある。取り壊すことが明らかな原因として、法令または契約によって取り壊すことが明らかになっている必要がある。例えば、都市計画や区画整理などの法的根拠に基づいて立ち退かなくてはならないということが決められている場所には適用される。また、更地にして地主に戻すということが、法律上義務づけられている定期借地権が設定されている土地でも、借地人はいずれその建物を取り壊し、更地にしなければならない。この場合は建物を取り壊すことが契約上の義務である。このように契約上、建物を取り壊すということが明確な場合、その間、期限付建物の賃貸借ができる。
ところが、貸主の取り壊し計画というのは、単なる個人的な計画にしかすぎない。これは法令や契約によって取り壊す義務があるという種類のものとは考えられないのである。単純に貸主側に建て替えの計画があるというだけでは、期限を定めた契約をすることはできない。一般の賃貸借契約と何ら変わりがないのである。
取り壊し予定というのは家主の都合ではない。家主の計画だけでは不十分なのである。「第三者との契約によって法的な義務として取り壊しをしなければならない場合」という具合にかなり限定されているのである。このことを知らないで、取り壊し予定があるからそれまで期限付きで貸したつもりが、実際には借家権が存在し、酷い目にあうということがある。
このように考えると借地借家法によって期限付建物賃貸借という制度は確かにあるが、実務面ではそれほど活用できないということが分かる。
一時的・臨時的な使用の場合、借家権は発生しない。元来、一時的に建物を賃貸借しているためにその期間が終了と同時に権利も終了し、更新や正当事由を必要としない。
この一時使用賃貸借の適用にも難点がある。それは、一時的・臨時的であるということを何によって証明するかということである。当事者の合意によって、特約事項にすれば良いというのであればトラブルにはならない。
一時使用賃貸借という契約に確かになってはいるが、借主としては「それは家主の都合で勝手に明記したにしかすぎない。自分の使用は客観的に見ても一時使用ではない。」として立退問題が起きるケースが多いのである。実際に裁判をしてみると裁判所の判断はなかなか厳しい。一時使用賃貸借の特約があったとしても客観的に見て一時的・臨時的と認められないため、法的な一時使用として認められないということが多い。そのため、通常の借家権が発生することになる。
一時使用貸借をめぐるトラブルを未然に防ぐためには、貸主の建物に対する使用計画が確定している必要がある。また、借主が何故一時的にその物件を借りるのかという事情をできるだけ具体的に書面化しておく。なるべく、具体的に細かく書けるだけ書いた方が良い。
「一時使用」の期間は法律では明確にされていない。判例ではせいぜい1年以内の期間である。2〜3年貸しては、なかなか一時使用とは認めてもらえないのが実状である。このように一時使用賃貸借では普通の借家権を発生させない利点があるが、案外この一時使用賃貸借を活用できる場面は少ない。
現在の借地借家法で借家権が発生しないケースは期限付建物賃貸借か一時使用賃貸借しか考えられない。しかし、前述したように、これらのものは貸主が実務上有効に活用できるというものではない。
最近、定期借家権を導入しようとする意見が出てきて、実際に法務省も様々な研究をしているところである。この定期借家権は契約期間が満了すれば、正当事由がなくても建物を返却してもらえるということが法的に保護されるものである。
周知のとおり、定期借地権は平成4年8月に認められた。既に、施行されて5年が経過したが、定期借地権付き住宅はかなり販売されている。この好調をバックグラウンドにして定期借家権の導入も考えられている。
定期借家権は平成4年に借地借家法を制定する当時かなり議論されたが、最終的に見送られることになった。見送りにされた理由として、定期借家権が貸主と借主の利害がかなり対立するということが言える。
個人的な考えであるが、定期借地権はそれを導入することによって貸主にも借主にもかなりのメリットが存在する。平成4年は既にバブルが弾けた後であったが、それでも土地の値段はかなり高かった。そのような市況下で、定期借地権付き一戸建て住宅を販売をすることによって、安い単価で一戸建て住宅を供給することができるようになったのである。これは当初の予測以上に貸主と借主にメリットがあって実績が上がっている。
一方、定期借家権はどうであろうか。定期借家権は貸す側にはメリットがあるが、借主にどんなメリットがあると言えるか。この借主のメリットが明確にならなければ定期借家権の導入は相当難しいように思える。
ビル賃貸借では様々なトラブルが発生する。テナント入居時、契約期間中、更新時、明渡時などのトラブルを一通り取り上げ、現在の法制度の下でどのような対処ができるかを説明していく。
トラブルが多発している原因の一つとして、景気の悪さがある。マスコミが回復基調にあると報道しても、実務ではそんな実感を持っていない。例えば、倒産などの理由によって契約を履行できないケースが多いのである。
経済情勢だけではなく、それと同時に社会全般が権利意識に目覚めてきている。社会構造もこの権利意識の覚醒によって変化してきているのである。
賃貸借契約を取り交わした会社の看板は確かに出ているが、何か得体の知れない表札もいっしょにかかっていることがある。契約書では、借主が誰であるかということを特定しているは$:$G$"$k!#=>$C$F!"
このような場合、貸主側は賃貸借契約を解除できるであろうか。このケースでのまず第1のポイントは、転貸になるかということである。
例えば、入居している会社が当初契約した会社の子会社のとき、契約違反と言えるか。
一般に子会社を入れるケースはそれほど問題にならない。大抵、家主の了解を得られれば問題にはならない。その他には、会社が倒産したため、別会社を作ってそのまま事業を引き継ぐことも考えられる。要するに名前は別だが実態は変化していない。契約の実態が変更されれば、転貸になるが、上記のようなケースは実態が変更されたとは考えにくい。
家主の承諾なしに転貸して契約に違反すれば、一般常識から言えば契約を解除できそうである。しかし、借地借家法では賃借人の軽微な違反があったとしてもそれを理由に賃貸借契約の解除までは認めないという判例が定着している。つまり、形式上契約に違反していてもそれが貸主に対する背信行為、もしくは貸主との信頼関係を破壊するにまでに至らないとされる場合がある。そのため、軽微な違反であれば貸主は契約解除まで請求することはできないのである。軽微な違反かどうかの判別ポイントは信頼関係を破壊したかどうかである。残念ながら、この信頼関係破壊の基準が明確でないために、これが争点になってしまう。
この種の問題を事前に防ぐために、ふだんからテナントの情況を把握しておく必要がある。事務所から店舗へ、あるいは業種を変更しているというケースもある。通常の賃貸借契約において、使用目的は契約で定められている。そのため、勝手に使用目的を変更することは契約違反である。もし、契約で使用目的が定められていなければ、用途変更は自由になる。
用途変更があったとしてもそれだけの理由で賃貸借契約を解除して、明渡請求ができるとは断定できない。賃貸物件に損害を与えるような重大な目的変更があるならば、それは貸主に対する背信行為であるとして契約解除することができる。
従って、 1と 2は形式的な違反があったとしてもその程度によって契約解除ができるかどうかが決まると言える。
かつては、保証金を担保に入れるということは希なケースであった。しかし、近年は、保証金を担保に入れることが多くなってきた。テナントにしてみても多額の保証金をすべて自己資金でまかなうのが難しいため、銀行から借り入れて用意するのがほとんどである。銀行も融資するからには担保が必要となる。
保証金はいずれ、家主からテナントに返還されることになる。そのため、銀行は保証金の返還請求権を担保にとって融資するのである。つまり、保証金返還請求権という権利に対して銀行が質権を設定するのだ。この質権設定契約をすることによって、将来返還される保証金を金融機関の担保に入れるのである。
質権設定契約は融資をする債権者と債務者の間で契約をする。テナントと金融機関がこのような契約をしても、家主には直接の関わりを持たない。しかし、このような契約がなされたことを家主に対して通知しなければならない。通常、金融機関は保証金に質権を設定したことを家主に通知するだけではなくて、家主からの承諾書を取り付けている。
銀行の質権設定に対して承諾書の署名捺印を好き好んでする家主はいないが、実際には承諾書にサインしない限りはテナントの確保ができない。そのため、しぶしぶ家主が保証金に対する質権設定を承諾してテナントを入れることが多い。
例えば、テナントは保証金の工面のために銀行から何千万円の融資をうけて、ビルに入居したとしよう。ところが、将来このテナントが倒産して家賃を支払えなくなったら、どのようになるだろうか。銀行は当然、保証金に対して質権を設定しているのでそれを回収しようとする。一方、家主側は、家主の権利を確保するための保証金であるため、その権利のほうが銀行の質権よりも優先すると考える。これは、滞納した家賃を差し引いて残りを銀行に渡すという考え方である。
敷金は家賃の滞納などが発生した場合の担保という意味あいで、貸主に預ける金銭なのである。そのため、貸主は当然その敷金から自らの権利を確保するためにテナントの債務を差し引くことができる。このように敷金は当然に差し引くことができる。
ところが、保証金は敷金と扱いが異なる。賃貸借契約の中で何らかの問題が発生した時に保証金から差し引くということが明記されていればまだましである。保証金の名目が金銭消費貸借となっていれば、建物賃貸借契約と金銭消費貸借契約は別個の契約となり、敷金と同じように、テナントの債務を保証金から差し引くことはできない。
銀行が家主に対して保証金に質権を設定したという通知をした後発生した家賃滞納分について、家主は保証金から相殺することができないという考え方がある。保証金を担保に入れることを家主が承諾してしまっては、その承諾後は滞納家賃分を保証金から相殺することができなくなる可能性が高い。可能性と表現したのは、保証金の性質にも様々あるため確定的に言及することができないからである。敷金的なもの、全く異なるもの、中間的なものなど様々な保証金が存在する。実は、保証金の研究については、十分なされていない。それほど文献もないし、判例も少ない。
保証金の性質が曖昧であるからこそ、実務上、問題に直面しやすい。従って、貸主はできるだけ保証金を担保に入れるということを承諾しないように留意してもらいたい。保証金の預かり証にも、「無断で担保に入れてはならない」と明記しておくべきである。保証金はいずれテナントに返還するものであるが、家主に無断で譲渡したり担保に入れたりするということが起こり得るため、それらを禁止しておくのである。そのため、譲渡・質入れを禁止する旨を契約書と保証金の預かり証の両方に明記しておく。善意の第三者が出現することを防止するためにはこれらの明記は必要なことである。
この譲渡・質入れを承諾しなければテナントを確保できないという時には、仕方なく承諾するしかないだろう。それでも無策のまま承諾すべきではない。まず、銀行が用意した質権設定の内容をよく読む。そして、家主の債権を確保するため家主の債権を保証金から相殺できることができるように銀行に交渉する。こうして得られた合意内容を承諾書に明記した上で署名捺印するのである。
この作業を怠って承諾してしまっては、将来家主の債権を保証金から相殺できるかどうか曖昧になってしまいかねない。保証金を担保に入れた後に発生した滞納賃料については、保証金から相殺できないという判例もある。
通常、滞納が発生するのは質権設定時よりも後になってからである。そのため、家主だけが損をする可能性が高い。あくまでも、残金がある限りそれを担保にいれて良いという取り決めにしておかなければならない。
保証金をめぐってのトラブルも数多い。なぜなら、保証金の法的な性質がななり曖昧であるためである。
「敷金」というのは、借主の家賃やその他の借主側の債務を担保するために支払われる金銭である。敷金は契約が終了して明渡をした時点で、賃料の滞納分や借主が支払わなければならない何らかの金銭のすべてを差し引いて、残金があれば借主に返還されなければならない。
オーナーは家賃の滞納などがあった場合、当然敷金から差し引くことができる。賃借人の債務を敷金から差し引いて残高があれば、賃借人に返却すればそれで良いのである。その敷金を第三者から差し押さえられたり、債権譲渡されたりしても、もともと敷金というのは貸主の債権を担保するために預かっているお金であるため、最優先で貸主の債権を敷金から差し引くことができる。
このように敷金についてはその定義が明確になっている。敷金に対して、第三者が債権譲渡などを主張してきても何も恐れる必要はない。
問題は保証金である。保証金も預り金と考えるのが一般的である。ところが、保証金は敷金と同じ性質のものではない。ビルの大小、契約の形態などで、それぞれ保証金の扱いが異なってくるからである。また、地域によっても違いがある。
保証金の性質は敷金のように明確でないために、保証金をめぐってのトラブルは非常に発生しやすい。確かに保証金も敷金と同じように、貸主の債権担保のために預かるお金という意味合いも持つ。ところが、それと当時に、借主が貸主に対してお金を貸し付けるという金銭の消費貸借の性格もある。つまり、借主が貸主に金銭を貸しているとも考えられるのである。敷金はせいぜい賃料の数ヶ月分である。多額の敷金でも、20ヶ月分であろう。
敷金を預かっても建築費用の捻出はできない。そこで建設協力金という言葉が使われて、建設協力金として保証金を差し入れるようになった。保証金を賃貸借契約書の中に含むケースもあるし、金銭消費貸借という全く別個の契約として借手のテナントが家主にお金を渡すこともある。
保証金は権利金と異なり、将来的に返還義務が伴うのが常識である。ただし、各情況によって保証金の取り扱いは異なる。
従来、賃貸借契約に保証人をとるというのは重要視されてこなかった。というのは、賃貸借契約で家賃が滞ってしまうということはあまり起こらなかったからである。ところが、経済情勢が一変してしまって、それが現実的問題となってしまった。実際に家賃の滞納が増えて、それに伴うトラブルも増加傾向にある。
家主が債権を確保するために保証人は必須である。今までであれば、保証人をとったとしても、テナント会社の社長である個人を保証人にするのが関の山であった。敷金と保証金で滞納家賃を賄えれば問題ないが、それほど十分な敷金と保証金を預かっていなければ、トラブル時に大問題となりかねない。
テナントが倒産して、すぐに立ち退いてくれればまだ良い。中には、設備やその他のものを残したまま行方不明になってしまうこともある。追い出すこともできなくて、家賃の分だけ滞納がかさむのである。このような場合では、保証金を取り崩しても大赤字を抱え込んでしまいかねない。
このように考えると保証人をとっておく必要があることが分かる。保証人は名前だけの名目的な保証人ではなく、支払い能力のある人を連帯保証人にしておくべきである。不動産を差押えたとしても、回収するまでに競売などで2〜3年かかる。もはや不動産は担保としてはあまり多くを期待できない。できるだけ早く債権を回収するためには支払い能力のある連帯保証人が必要なのである。
賃貸借契約の保証では根抵当と同じように、現在および将来発生する債務をすべて保証する根保証が必要である。通常、根保証の限度額を決めることはしないため、実際には青天井の保証となる。
建物賃貸借契約は更新されるのが原則であるため、新規の契約で保証人となった人の責任は更新された後も続くことになる。というのは、賃貸借契約は将来更新することを前提とした継続的な取引であるからである。従って、保証人の責任は更新後も続くことになる。それだけ、保証する側の責任は重いと言える。貸主にとって、債権を保証人に請求できるという点で保証人の存在は非常に有利である。
しかし、次のようなケースが考えられる。契約当時、テナント会社と深い関係のあった連帯保証人がいたとする。ところが、その後になってから連帯保証人が保証人を止めたいと申し出たらどうなるか。保証人を止めたいという請求はある一定の事情があれば認められる。それは、保証人が相当長期間にわたって保証しているという事実と、テナントが何回も賃料の滞納などをしているにもかかわらず家主が家賃の請求その他の法的手段をとらないなどの事情がある場合などである。
この場合、保証人をやめたいと申し出た時よりも前の債権については、保証人に責任があるが、それよりも後の債権については責任を持たなくてもよい。過去の債権と未来の債権の臨界点は、保証人が保証人をやめる旨の通知をした時点となる。
保証人をおりるにはそれ相応の理由がなければならない。勝手に保証人をやめることはできないのである。だからこそ、誰が連帯保証人になるかという問題は非常に重要である。会社社長の個人保証をとっていても会社が倒産した後で会社社長の個人資産をあてにできるとは考えにくい。従って、第三者の保証のほうが有益なのであると言える。
ビルの賃貸借の問題というのは、何か参考文献を読めばすぐに対処方法が分かるというほど簡単ではないのである。不動産に関係する事件や事故は多数あっても、この分野の法的研究は実のところ遅れていると言わざるを得ない。例えば、不動産の売買に関しては宅建業法で規制を設けているため、契約内容が一般化している。ところが、宅建業法は賃貸借契約そのものについて全く規制していない。
このような理由で、広く一般に広がった統一的な賃貸借契約書というのは存在しない。ビル賃貸借契約が多種多様で一般化されていないため、標準的な契約とはどのようなものかも分からないのである。多くの家主は自らの業務を中心に契約書を作成するので、自分で作成した契約形態が標準的であると考えがちであるが、実はそうではないことが多いのである。
保証金に対する取り扱いもまちまちである。だからこそ、ありとあらゆる種類のトラブルが起き、契約もそれぞれ異なるために判例もばらばらになる。同じテーマについても、否定した判例と肯定したものが存在するのである。一般に弁護士は判例の傾向をみて、処理しようとするトラブルがどのタイプのものに当たるかを見て解決方法を予測するが、ビル賃貸借ではその予測が非常に難しい。
このように多種多様であるトラブルの中から、特に典型的な問題を選んで解説しよう。
かつては賃料増額請求のトラブルが多かったが、最近は賃料減額請求のトラブルが目立つようになった。テナントから賃料の減額請求があった場合にどのように対応すれば良いのか。賃料の増額も減額も借地借家法の32条に根拠がある。近隣の相場その他の事情に合わせて、不相応な賃料になった場合は、増額もしくは減額を請求できるとしている。増額も減額も双方とも一方的に通知さえすれば法的に認められる。相手の同意があってはじめて減額できるというのではなくて、テナント側から貸主に対して、一方的な通知だけで良いのである。通常、通知は内容証明郵便で行う。
ただし、一方的通知だけで法的に認められると言っても、100 万円の賃料が50万円に何の審査もなしに下がるという性格のものではない。問題は減額を認めるだけの理由があるかどうかということと、適正な賃料がいくらなのかということである。従って、借主が一方的に通知した金額が新しい賃料として自動的に決定するというものではない。
例えば、100 万円の賃料を70万円に引き下げるようにテナントが請求してきて、実際に70万円しか支払ってこなかったらどうなるだろうか。この場合、貸主側に対抗手段がないのか。減額請求の文書の通知だけで、従来の賃料100 万円を支払ってもらえればそれほど問題にはならない。通知と同時に賃料の支払額も減額されてしまっては困る。
テナントから減額請求があってもその後、適正な手続きを踏まなければ賃料は決めることはできない。従って、最終的に賃料が確定するまでの間、貸主は暫定的な賃料を請求することができる。例えば、現行100 万円の賃料に対して、70万円の減額請求があったとして、100 万円よりも高い暫定賃料を請求することはできない。しかし、貸主が正当と思える範囲の賃料で100 万円以下の暫定賃料の請求をすることができる。そのため、減額請求があってもそのまま100 万円の賃料を請求しても問題ない。
これに対して、減額請求をしたテナントは貸主側から適当と思われる額の暫定賃料請求があれば、その時点ではその額の暫定賃料を支払わなければならない。もし、支払わなければ賃料の一部不払いとなる。
その後、調停して新賃料を決定する。調停で、新賃料が決定した後、暫定賃料の精算をする。調停で話がつかない場合は裁判となる。この場合、裁判で判決が下されるまで貸主が相当と認める額を借主は支払わなければならない。
このように、テナントから減額請求があっても、暫定的に適当と思われる賃料を請求することができる。暫定賃料に対して、テナントが満額支払わなければ、賃料の一部不払いとなるので、契約解除につなげることができる。賃料減額請求は賃料増額請求の全く逆である。ちなみに、賃料増額請求の場合は貸主が現行100 万円の賃料に対して、120 万円の増額請求を一方的にする。これに対して、テナント側は自らが相当と思われる110 万円の賃料を支払っておけば賃料不払いにはならない。
賃料の減額請求だけではなく、保証金の減額請求もある。賃料の減額請求は借地借家法32条に法的な根拠があるのでそれに基づいて実行することができる。しかし、保証金の減額請求はできない。保証金は入居の段階で差し入れられているものなので、それに対しての減額請求はできないのである。
ただし、敷金と賃料が連動するような場合、賃料が上がれば敷金も差額を加えて増額され、賃料が下がれば敷金も減額されるというケースがある。これは契約の方法によって異なる。敷金を定額で決めていれば減額請求ということは起こらない。
修繕の基本的な義務は家主とテナントのどちらにあるのか。
この修繕義務は貸主側にある。貸主側の修繕義務については民法で決められている。借地借家法では定められていない。民法で決められているということは、当事者間で特約があれば、特約を最優先することができる。修繕義務の特約には制限がない。そのため、テナントに修繕義務を負わせるという特約も有効になる。ただし、修繕にも制限があって、共用部分や躯体部分については家主が責任を負わなければならない。
もし、修繕に関$9$kFCLs$r@_$1$J$+$C$?$i!"%F%J%s%H$H%*!<%J!<$N4V$GLdBj$K$J$j$d$9$$!#
例えば、修繕を必要とするか否かの判断基準は何かという問題がある。修繕をしなければ、契約で決めた目的に従って通常の使用ができない状態であれば、貸主の修繕義務が発生する。
地震などの不可抗力によって破損した場合の修繕に対しても家主は責任があるのか。不可抗力であっても貸主に修繕義務がある。テナントの不注意によって破損させた場合は、修繕義務とは別の問題となり、テナントの責任で修繕することになる。
破損があまりにもひどくて修繕が不可能な場合はどうなるか。物理的に修繕が不可能であったり、新築にしたほうが良いくらいの過大な費用が発生するケースでは、貸主に修繕義務は発生しない。
一般に、修繕について特約で取り決めをしているが、実務の場面では「修繕をしなければ、契約で決めた目的に従って通常の使用ができない状態」というものの解釈が分かれる。そのため、貸主側と借主側の修繕義務の区分を明示しておく必要がある。修繕義務の区分を明記することによって多くのトラブルは回避できる。明確に責任範囲を区分しないで、抽象的な表現にとどめておくと、後になって解釈で争うことになりかねない。
修繕については、特約で自由に契約することができるので、具体的な表現にして責任範囲の区分を明確にしておきたい。
家主に修繕義務があっても、なかなか修繕しなくてテナントが困ってしまうことがある。テナントはいつまでも貸主が修繕するのを待っていることはできない。このような理由で、テナントが修繕のための工事をして、その費用を貸主に請求するケースがある。
民法では「必要費の償還請求」と「有益費の償還請求」というものがある。貸室を使う上において、必要不可欠な工事についてはその費用をただちに貸主に対して請求できる。これが必要費の償還請求である。
一方、必要不可欠な工事とは言えないが、何らかの改良を加えることによって建物自体の客観的価値が上がる時、その賃貸借契約が終了した時点でその客観的価値が増加した部分に見合うだけの金銭を家主に対して請求できる。これが有益費の償還請求である。
例えば、冷暖房効率を上げるために、天井や窓枠などの加工をしたとしよう。この場合、天井や窓枠の加工がなければその部屋が使えないということはない。従って、必要不可欠ではない。しかし、窓枠や天井をテナントの費用で変えたことによってそのビルの客観的価値が上がったのは事実である。この場合、すぐに家主に対して有益費の償還請求をすることはできないが、契約終了時にそれができる。
この必要費と有益費の償還請求を特約で排除することができる。なぜならば、これらの償還請求は民法で認められた権利だからである。特約で排除しても全く問題ない。
店舗の改装・模様替えはトラブルになる可能性が高い。店舗の改装・模様替えは営業目的の変更が伴うものが多い。そして、よく見られるケースが店舗を転貸して、全く別の経営者が用途変更をしてその店舗を使用するパターンである。もちろん、問題になるのは貸主に黙って勝手に用途変更した時である。このような用途変更を目的とした改装・模様替えは契約解除の原因となり得る。
一方、事務所の場合、このような問題に直面することは少ない。事務所も改装や模様替えをする。事務所の改装・模様替えで原状回復ができなくなるということはめったにない。もし、原状回復ができる程度の改装・模様替えであれば、無断でそれを行ったとしても契約解除の原因とはならない。従って、事務所の改装・模様替えの問題を扱う時は、原状回復の成否によって、契約解除できるかどうか決定する。
用途変更が伴う改装・模様替えは契約解除の原因となりうるが、形式的に用途変更があったから契約解除できるということではない。信頼関係を破壊するような内容でなければ、契約解除できない。
用途変更を察知するには、ビル管理者からの連絡がほとんどの場合唯一の情報源となる。日頃のテナントとの接触をとおして、借主の変更、経営者が交代しているかどうかなどを日頃から情報収集しておく必要がある。無断転貸の場合は契約の解除を考慮して対処すべきである。
最近、倒産する企業が増えているが、このような環境下でもビルのオーナーは賃料を確保しておかなければならない。テナントが賃料を支払っている間はオーナーとしても対処のしようがない。問題は賃料が滞った時に、そのまま続けて貸しつづけるか契約解除するかの判断をしなければならないということである。判例では、賃料が1度延滞されただけでは契約解除できないとしている。判例では、2〜3ヶ月の賃料の延滞が続いてはじめて信頼関係を破壊したと見なされる。そのため、家賃が滞ってから2〜3ヶ月はテナントの様子を観察することになる。
契約解除通知を内容証明郵便で出して問題が解決すればそれで良いが、実際はそんなに簡単ではない。契約解除通知を出してもなかなか明け渡さないで、賃料の支払いがないまま居座られるということがしばしば見受けられるのである。
オーナーが十分な敷金と保証金を預かっていればそれほどあわてる必要もないが、そうでなければ、赤字にならないためのタイムリミットがかなり厳しくなる。このタイムリミットは保証金と敷金の額によって決定する。
どうしてもテナントが立ち退かない時は裁判に訴えなければならなくなる。一般に裁判期間は長いものと思われている。しかし、賃料不払いで契約解除されたテナントは争うような強みもないので1回か2回の裁判で判決が下されてしまうのである。最短で3〜4ヶ月、一般的に半年で判決が下される。この後、明渡の強制執行をすることになるので、トラブル処理には最低半年の期間を設けておく必要がある。
保証金から強制執行にともなう諸費用をすべて差し引いても損が出ないように対処しなければならない。従って、賃料の支払いが止まった時は速やかな対処が求められる。
会社が倒産して賃料が未払いになる時には、保証金の差押通知が裁判所から来ることがよくある。通常、倒産した会社と取引のあった債権者は倒産した会社の財産を差押えようとする。そのため、これらの債権者はテナントの保証金の返還請求権を差押える。このようなケースでは、ビルのオーナーのことを第三債務者と呼んでいる。差押や仮差押を申し立てする人を債権者と呼び、相手方のことを債務者という。そのため、テナントは債務者ということになる。この債務者に対する債務者が第三債務者ということになる。なぜなら、保証金は返還債務というかたちでオーナー側の債務だからである。
差押と仮差押の違いについて解説しよう。差押というのは、差押手続きをする債権者が既に判決や公正証書などの公文書に基づいて強制執行することである。
一方、判決もなく、公正証書などの公文書を持っていない債権者は、裁判に訴えなければ差押をすることができない。ところが、判決が出るまでの間に、相手側が資産を処分してしまっては債権の回収が不能になるため、取り急ぎ相手の財産を勝手に処分できないように凍結したいという事情がある。このような場合に仮の差押をして、現状のまま財産を凍結してしまうことができる。この仮の差押が仮差押である。
もし、保証金に対して仮差押の通知がきたら、ビルのオーナーはテナントに保証金の残金を返還してはならない。注意する点として、仮差押がきたからといって倒産した会社の債権者にすぐに保証金を支払わなければならないということはない。家主はテナントに対して債務があるかどうかを陳述書に記して回答しておく。この陳述書の用紙は仮差押通知と同封されて送られてくる。その書式に基づいて一定事項を記載したものを裁判所に返信する。
差押の場合、債権者は一定期間経過後に第三債務者である家主に対して直接取り立てをすることができるため、支払いを請求してくる可能性が高い。この場合、第三債務者のオーナーは債務があるかどうかを確認しておく必要がある。そして、支払うか否かを債権者に回答する。
一般的に、テナントが立ち退かない状態で保証金を返還する義務はない。明け渡しが完了していない状態では保証金を返還する必要はないのである。また、家主に対して賃料の未払いが存在するなら、保証金から未払い賃料を相殺することを考えなければならない。債権者から第三債務者の家主に対して支払いを要求してきた時に、滞納賃料を相殺したいということを当然主張しておくべきである。差押をする前に滞納していた賃料については、家主の債権の弁済期到来が早いため、差押に対して対抗することができる。
問題は差押通知が来た後に発生した滞納賃料を保証金から相殺できるかどうかである。民法では、差押後に取得した債権は相殺して対抗することができないとしている。このことはビルのオーナーにとって大問題となる。すなわち、差押通知が来た後の滞納賃料の回収が困難になるのである。
この問題に対処するには、契約の中に期限の利益の喪失条項というものを加えておく必要がある。「期限の利益」について説明しよう。例えば、人から物を借りて、10月末日に代金を支払うという契約をしたとする。これは10月末日になった時点で代金を支払わなければならないという義務である。それと同時に10月末日がくるまでは支払わなくても良いということである。10月末日に代金を支払わなければならないという責任は、それまでの期間は支払わなくてもよいという利益なのである。これを期限の利益という。
倒産してしまったような信用できない相手に対しては、期限の利益を放棄させておくように取り決めておくと効果的である。例えば、テナントが差押されたなどの場合、期限の利益を失って即時一括払いしなければならないという契約をする。これを期限の利益の喪失条項という。
銀行との取引契約には必ずこの条項が含まれている。銀行から住宅ローンを借りて、20年間毎月欠かさず支払いをしているというケースでも、差押されたり支払いを怠った時、期限の利益を失って残額を一括支払いするという条項が必ずある。平常時は分割の返済で良いが、緊急時は即支払い期日が来たとする方法なのである。
このようにトラブルが発生した時点を一括支払期日にすることによって差押通知が届いた後の支払代金についても保証金から相殺することができる。このように、第三債務者になり得るオーナーは債権者に対して対抗できる体制を整えておく必要がある。
敷金については、残額がある場合のみ返還すればよい。そのため、敷金について対抗処置をする必要は全くない。しかし、保証金の性質は曖昧であるため、差押されたら即相殺するという条項を設けておかなければならない。
テナントが倒産してしまうと、裁判所を通じた通知だけではなく、それ以外からの請求もくる。裁判所経由でない通知の中で、しばしば見られる債権譲渡通知というものがある。「債権譲渡」というのはテナントがビルのオーナーに対して持っている債権、すなわち、敷金や保証金の返還を請求する債権を別の第三者に譲渡したということである。このような旨を通達する通知を債権譲渡通知と呼んでいる。
厄介なことにこの債権譲渡通知がオーナーに集中してしまうのである。
街金と称される街の金融業者は資金を融資する段階で何十通にもおよぶ内容証明郵便にテナントに署名捺印させることがある。有事の際に即座に債権譲渡すると約束させるのである。そして、この内容証明郵便が関係者にばらまかれることになる。ビルのオーナーはテナントに対して債務を負っている側なので、契約書の中で保証金・敷金の債権譲渡を禁止する特約条項を設けておかなければならない。また、保証金の預かり証にも債権譲渡の禁止を明記しておく。
債権譲渡禁止の特約はもちろん有効である。ただし、善意の第三者に対しては対抗できない。この善意の第三者は債権譲渡禁止の特約を知らない者ということになる。この善意の第三者の出現可能性を少なくするために、保証金の預かり証にも債権譲渡の禁止を明記しておくのである。
債権譲渡の通知が届いたらまず債権譲渡を禁止する特約があるかどうか確認する。民法上では、複数の債権譲渡通知がされた時、早く届いたほうが優先されるとしている。ところが、実務的には譲渡を受ける側が無理に取ったような譲渡通知もあったりするので、債権譲渡の効力に問題があることが多い。従って、債権譲渡通知が来たからといって即時に支払うべきではない。とりあえず支払いを留保し、どこに支払うか見極めがついてから支払いを行う。もちろん、支払いの前に相殺できるものはすべて相殺しておく。
どうしても、支払うべき相手を特定することが難しければ供託する。供託しておけば後で生じる問題に巻き込まれることはない。
当事者間の協議の結果、更新することを合意更新と言う。当事者間で協議をすることができなくても賃借人が引き続いて貸室を使用している場合、これは法律上更新と見なされる。これを法定更新と呼ぶ。もちろん、賃借人が引き続いて建物を使用することに対する異議を申し立てることもできる。ただし、貸主側の異議は自らがその建物を使用する必要がある場合等の正当事由がなければ、貸主の異議は認められない。正当事由が認められない限りは更新になってしまうのである。
正当事由を考慮するにあたって、貸主と借主の間でどちらがその建物を必要とする度合いがより強いかということが判断の分かれ目になる。もともと事業用のビルで、貸すことを目的としているので貸主の必要性というのはそもそもはじめからないと考えた方が無難である。
更新時に問題になるのが、更新料の支払請求である。一般の商習慣では更新料の支払いが広く行われている。しかし、更新料の請求というのは法的に認められた権利ではない。従って、更新料を請求するには、当事者同士で更新料の請求に対して合意しておく必要がある。更新料を請求する旨の特約事項がない場合、更新料の請求権はない。
更新料の金額であるが、法律上何も記されていない。だからと言って、更新料はいくらにしても問題ないというわけではない。これはそれぞれの情況に合わせて更新料の額が制限される。通常、1〜2ヶ月の更新料が多い。特約で賃料の1ヶ月を更新料とするとして、更にその額を制限されるということは考えられないが、あまりにも多額な更新料を特約で決めても裁判になるとカットされるであろう。
特約で更新料の支払いに関する条項を設けておかなければ、更新料を請求することはできない。テナントに更新料の支払義務はないと言える。ところが、更新料の支払いについて特約で定めていたにもかかわらず、更新時に交渉が難航して更新料をテナントが支払わなかったというケースもある。このよう場合、更新料の支払いを命ずるものとそうでない二通りの判決が出されている。これは両者とも東京地裁の裁判例である。つまり、更新料については裁判所の判断が分かれているのである。更新料の請求は合意更新にしておかなければ請求しにくいと考えてもらいたい。
貸主が債権を回収するにあたって保証人が重要であるということは前述している。もとの賃貸借契約である原契約時は保証人を取りやすい。ところで、更新契約を済ませた後、原契約時の保証人の責任はあるのか。一般的な判例では、原契約時の保証人は更新後の契約に対しても保証の責任があるとしている。なぜならば、賃貸借契約は更新されることを原則としている。更新された後の契約も実質的には原契約がそのまま継続されていると考えるからである。合意更新でも法定更新でも両方ともに原契約時の保証人の責任を認めている。
ただし、実務的には更新毎に保証人の署名捺印をとっておいた方がベターである。保証人は原契約時には保証人であることを自覚しているが、数年経つとその責任があると考えていないことが多い。中には保証したことを忘れている保証人もいる。
更新時には、家賃がいくらになるかという事に関して、保証人は関与していないため、保証人が責任を逃れようとすることがしばしばある。
実務的に判例を持ち出して保証人に議論をしたとしても、それでも納得してもらえないであろう。このようなことにならないためにも、更新毎に保証人の署名捺印をとっておくと、少なくとも更新契約については責任を認めてもらえるだろう。
明渡時の典型的なトラブルは、借主が賃料を不払いして貸主が契約解除した時のトラブルである。前述したように、2〜3ヶ月の賃料不払いが生じた時、契約解除が認められる。1ヶ月の賃料未払いでは契約解除するには無理がある。やはり、信頼関係の破壊の基準は2〜3ヶ月の賃料延滞である。
1造作の撤去、専用設備の取り外し
契約解除に伴って問題になるのは現状回復である。「原状回復」という意味は曖昧である。原状回復とは元の状態に戻すということであるが、この状態の程度については特定することが難しい。
借主のための造作や専用設備の取り外しをした場合、これらについては借主側に原状回復義務がある。この場合、法的な問題というよりも実務的な問題である。例えば、借主側にそれだけの金銭負担能力があるかどうか。あるいは、借主が原状回復する場合、乱雑であったりする。それとは逆に、貸主が原状回復するとコストが高すぎると借主からクレームがついたりする。このようなトラブルを避けるために、事前に工事の見積もりをとり、その見積もりについて貸主と借主が納得した上で原状回復すべきである。
2貸室内壁、天井、床などの補修
貸室の天井、内壁、床などの補修義務はどちらにある$N$+!#
原状回復に伴うトラブルを回避するためには、原状回復の費用負担、その他の詳細にわたって責任範囲を明確にしておくのが賢明である。工事をする際には工事代金の見積もりをとり、その金額について両者が納得して工事を実施すべきである。責任範囲の明確化と工事代金の合意を得るということがこのようなトラブルを避けるポイントであると言える。
造作は建物そのものではない。造作はテナントの所有物である。そのため、明渡時点でテナントは造作の買取請求をすることができる。賃料不払などの契約違反をした場合は、テナントは造作の買取請求をできないが、貸主側の正当事由や期間満了などの一般的な明渡時の時、テナントは造作の買取請求ができるのである。
家主が造作の代金を支払うまで、テナントが明渡をしないというケースでは、家主はどのように対処すれば良いのか。このケースでは、代金の支払いよりも明渡の方が先行すべきであるから、造作買取代金の支払いがないことを理由に明渡を拒否できないと記憶してもらいたい。これは最高裁判所の判例なので確定している。
1未払賃料の精算
明渡や原状回復が完了した後の金銭的な精算をどのようにするかという問題があるが、賃料の精算は特に問題ない。
2敷金の精算
明渡と敷金の精算は同時履行ではない。まず、テナントの明渡が先行しなければならない。明渡が完了した後で敷金の残高を返還すれば問題にならない。例えば、「明渡を引き換えにして造作の代金を支払え」とテナントは主張することができないのである。何度も言及するが、敷金というのはテナントの債務を担保するために差し入れた金銭なので、テナントに対して敷金から債務を相殺したという通知を出す必要はない。滞納賃料、原状回復費用、損害賠償債務などの明細を示して残金を返還すれば問題にならない。わざわざ相殺の通知文書を出す必要はない。これが敷金の性質である。
3保証金の精算
これに対して、保証金の精算には注意を要する。未払賃料がある場合、保証金から相殺するには、通知をする必要がある。直接相手と確認してもよい。もしも、交渉によって合意が得られなくても、一方的に通知しておけば法的に有効である。保証金からの相殺に通知文書が必要である理由は、保証金の扱いが必ずしも賃貸借契約と一体不可分ではないからである。そのため、保証金の扱いは敷金の場合と異なる。
テナントが賃料を滞納して失踪してしまうことがある。もっと、酷いケースになると暴力団員がその部屋に乗り込んでくることもある。会社の事務机などはそのままにして、鍵も返却してもらえず、保証金から実害額を相殺しても大赤字となってしまうのである。残念ながらこのようなケースが多発している。
このようなトラブルに巻き込まれた時、契約解除、明渡、賃料回収の3点を考えなければならない。第1の契約解除だが、通常、内容証明郵便で契約解除を通知する。ただし、契約解除の通知は相手方に届かなければ法的な意味を持たない。相手方が失踪していてはいくら内容証明郵便を送っても、内容証明郵便が差し出し人に戻ってしまう。そのため、法的に契約解除したことにはならない。
このような時にとる方法として、公示送達がある。公示送達は、裁判所の掲示板に文書を一定期間貼り出すことによって、法的に送達したと見なす制度である。
貸室に残された動産などは、失踪したテナントの所有物なので勝手に処分することはできない。後になって言いがかりを付けられないために注意が必要である。だからといって、家主としては漫然と時間を過ごし、失踪したテナントの動産をそのまま放置しておくわけにはいかない。
このような場合にやむを得ずとる方法がある。まず、滞納家賃の回収という名目で差押える。次に、競売にかけて家主が自分でその動産を落札する。自分の所有物になれば後は自由に処理できる。しかし、この方法は手間が掛かりすぎる。
このような手間のかかる方法を取らないためにも、賃貸借契約の中で、「失踪などによって契約を解除する時には残置物の所有権を貸主に譲渡する」という条項を予め特約事項で決めておく。このように特約でその所有権譲渡を明記しておけば、合法的に処分できる。もし、このような特約を設けていなければ、前述の手続きを取らざるを得ない。
民法上では、建物の賃貸人は、貸室内の賃借人の動産については、優先的に自らの債権回収にあてることができる。これを先取特権と言う。しかし、失踪するようなテナントが金目の物を残置するということは考えられない。むしろ、廃棄費用の方が余分にかかる。
実務の場面では、残置された動産で債権を回収するというのは非常に難しい。保証人の保証と敷金・保証金の範囲で何とか処理するしかない。そのため、敷金・保証金の残高を確認してから、損益分岐の時期を算出し、その期間内に問題を解決する必要がある。
賃貸借契約の形態は千差万別である。居住用の借家もあれば、事業用のビル賃貸借もある。更に、ビル賃貸借の中でも大型ビルの賃貸借と中小ビルの賃貸借の場合では契約の内容、敷金、保証金の額、目的などが全く異なっている。それに加えて、地域の特性も契約形態に影響を及ぼす。
このように賃貸借契約の形態が様々であるのに対して、その法的根拠はワンパターンの借地借家法である。しかも、借地借家法は居住を目的とする借家を対象とした借家法をベースに構成されているために、ビル賃貸借にはそもそもこの法律はなじまない。ビル賃貸借に借地借家法を法的根拠とするには無理があるのだ。実社会の実状に見合う法律体系を完璧につくりあげるのは不可能に近いが、この借地借家法はあまりにも時代の変化にとり残されていると言わざるを得ない。
実務面でトラブル発生の原因を考えると、ビル賃貸借には、標準的な契約パターンが存在しないということを指摘できる。例えば、土地売買については標準的な契約内容がある。ところが、ビル賃貸借ではそのような標準的契約を持っていないのである。それは、各オーナーの実務形態が千差万別であるため、その実務形態の標準化が進んでいないからである。そのため、実際の実務と法律との乖離が生じてしまうのである。
契約書を取り交わすことによって、トラブルを回避することができると言われているが、契約書に署名捺印をしても問題が発生するというのは、曖昧な契約条項を用いるからである。契約書の記載内容が明確であれば、トラブルをある程度防止することができるが、その前提として、当事者同時で決めた特約が法的に認められなければならない。
ところが、借地借家法には厄介な問題がある。契約書で明確に特約していても、借地借家法があるためにすべて自動的に有効だとは考えられないのである。借地借家法は元来賃借人を保護するための法律であるため、特約で賃借人が不利になるような取り決めを無効とし、賃借人が有利になるような特約を有効としている。特約がすべて有効であれば、トラブルの数は激減するであろう。しかし、特約の中に有効なものと無効なものが混在するために問題が発生しやすいのである。
契約書に明示しておけば、実際に有効な特約と見なされる事例を若干示す。実務の場面でトラブルになりやすいのは期間内解約である。契約期間は当事者間の合意で決める。ビル賃貸借の場合は1年以上20年以下の期間を法律で認めている。本来、期間を定めるということは契約期間中に解約できないことを意味する。しかし、当事者間で特約すれば期間中の解約をすることができる。
期間内解約のためには、一定の予告期間が必要である。貸主側からの解約予告は最低6ヶ月前でなければならない。この期間を短縮することはできない。テナント側からの予告は民法上で3ヶ月前ということになっている。これは民法上の規定なので、貸主側に有利に変更することができる。そうなると貸主側からの予告期間をどこまで引き伸ばすことができるかということが焦点になる。一般的に3ヶ月もしくは6ヶ月の予告期間を設けている。貸主側の6ヶ月という予告期間に対して、借主側の予告期間を6 ヶ月よりも多くとると契約上問題が生じる。貸主も借主も6ヶ月の予告期間を設けるというのは判例で認められている。
文例
賃貸借契約期間中に本契約を解約しようとする時は、貸主又は借主はいずれも6 ヶ月前迄までに相手方に対し書面により通知をしなければならない。
但し、借主はこの通知に代えて賃料および共益費の6ヶ月分相当額を貸主に支払うことにより即時解約することができる。
造作買取請求権に関する取り扱いは、平成4 年8月の借地借家法の施行とともに従前の扱いが変更された。旧借家法の下では、造作買取請求権は借家人の固有の権利であるため、これを放棄する特約を無効としていた。しかし、借地借家法はこれを有効であると認めた。この点では、借地借家法は旧借家法に比べて貸主に対して有利になったと言える。
造作というのは貸主の同意の下に建物に付加されて、建物の使用に客観的な便益を与えるものである。建物の躯体そのものになったものを造作とは呼ばない。造作は付加されても取り外し可能なものである。エアコンの設備やレストランの厨房設備は造作として認められている。
このような造作買取請求をしないという特約は有効であるとされている。これは、旧借家法当時に契約された賃貸借についても適用される。更新時にこの特約を追加すれば、有効な特約として認められるのである。
しかし、注意しなければならないことがある。平成4年7月31日以前に契約した賃貸借はその後何回更新されてもすべて旧借家法が適用される。もし、特約として賃借人が造作買取請求ができないという条項を設けなければ、旧借家法によって判断され、家主は造作物を買い取らなければならない可能性がある。特約として認められるようになったものはこれだけではない。例えば、使用目的を限定することができる。また、賃料不払の時、民法では支払いの催告をした上で契約を解除できるとしているが、特約を結ぶことによって催告しないで契約解除することも可能である。有益費の償還請求請を放棄させることもできる。必要費も同様である。これらは民法上の扱いなので有効となる。修繕も民法上の義務であるため、特約で自由な取り決めをすることができる。
借地借家法で禁止されていなければ、特約を自由に結ぶことができるため、修繕義務をテナント側に負担させても何の問題もない。更新料の請求も借地借家法で禁止されていないので、特約で自由に決めることができる。
文例
借主は貸室の明渡に際し、その名目の如何を問わず、貸室内の造作および設備について支出した必要費、有益費の返還請求をしないのみならず、貸室内に自己の費用をもって設置した造作の買取請求をすることはできない。
厄介なことに、契約書に明記しているにもかかわらず、そのとおりに認められない条項がある。法律に違反する条項であれば法的に認められなくても諦めがつくが、賃料のスライド条項が無効とされるとビル賃貸の経営が更に難しくなる。賃料の改定は実務上最もエネルギーを要する。この作業をできるだけスムーズに進めるために、賃料改定のルールを予め作成している管理会社もある。例えば、2年毎に○%賃料を引き上げるなど取り決めをしているケースがある。あるいは、固定資産税の改定に合わせて賃料を改定していくという方法もある。このように、何らかのルールを明文化しておけば、賃料交渉のエネルギーを節約することができる。
ところが、スライド条項自体がそのとおりの効力を認められるかどうか疑問である。スライド条項に合理的根拠があるとされれば有効だが、不合理であれば内容が制限される。合理的根拠が何であるかを判断するのは非常に難しい。率直に言って、スライド条項の合理性は問題となっている時の経済情勢がかなり影響すると考えられる。好況と不況、賃料の上昇傾向と下降傾向などの情況に合致する条項であれば、合理的であると判断されるし、そうでなければ不合理だとされる。現在のような市況でスライド条項に基づいて増額するのは合理的根拠がないと判断されるであろう。
文例
賃料は、月額 円とする。 但し、この賃料は本契約が更新される毎に5パーセントずつ増額するものとする。
1保証金返還の据置期間
ビル賃貸借契約において、保証金は非常に高額になる。そのため、保証金がトラブルの原因となりやすい。
保証金の返還時期と契約期間の終了が必ずしも一致しているとは言えない。例えば、保証金の返還に際しては一定期間の据置期間をおいて、その後に分割返済する方法がある。例えば、据置期間が10年間であったとし、テナントが10年を待たずに契約を解除したらどうなるだろうか。テナントとすれば、明渡を完了した時点で保証金を返してもらいたい。貸主としては返還の据置期間があるためにすぐには返還したくない。
この種の問題も保証金の性格によって取り扱いが異なってくる。判例も様々である。明渡をしたために、保証金の返還義務があるとした判例もあればそうでないものもある。そのため、本稿で決定的なことは断言できないのが残念である。
文例
貸主は保証金を賃貸借契約締結日より満10年間据置き、その後平成 年 月 日を第1回とし、毎年12月31日に金 円ずつ分割して返還する。
( 回払い)
2保証金の償却(不返還)
保証金の償却方法も数々ある。保証金を一部償却することは広く行われているが、その償却額や償却率については特に一般的なものはない。一定の額を償却するという方法もあれば、期間によって償却率が異なるケースもある。期間によって償却率が異なる場合では、解約までの期間が短い時の償却率が高くて、長くなれば償却が少なくなるという契約もあれば、これと全く逆の償却率の決め方をしている契約もある。また、契約を終了する原因によっても償却率に差があるものもある。例えば、貸主から解約する場合と借主から解約する場合と償却率が異なるというケースもある。
保証金の償却は基本的に有効だとされている。償却についての判例として1つの傾向がある。それは当事者同士の合意によって定めた償却率はその合意どおりの効力があるということである。判例の傾向があるとは言うものの、保証金の償却額があまりにも高額であるために、その償却率を圧縮したという判決もある。結局のところ、保証金の償却率としてどれくらいが妥当であるかというのは、それぞれの契約によって事情が異なってしまうと言える。
3建物所有権の移転と保証金の承継
建物の所有権が移転されれば、テナントの保証金はどうなるのか。敷金は当然賃貸借契約の内容である。ビルの所有権の移転によって貸主が変更したとしても賃借人の権利はある。当然、新しいオーナーは敷金の返還債務を引き継がなければならない。これは貸主の義務である。
ところが、保証金は敷金と扱いが違う。保証金は敷金と同様に新しいオーナーが当然のこととして返還債務を負うというものではない。基本的には、旧オーナーが保証金の返還義務を負うのである。もし、保証金返還義務を新しいオーナーが引き継ぐのであれば、ビルの売買契約時に契約書に明記し、テナントに対しても保証金の返還請求先がオーナー変更によって変わる旨の通知をテナントにしなければならない。テナントからは返還請求先が変更されたことを認める承諾書をもらっておく必要ある。
敷金は賃貸借契約と一体であるが、保証金は必ずしもそうとは断定できない性質であるため取り扱いには注意が必要である。最近見かける賃貸借契約には、保証金の条項が賃貸借契約の中に含まれているが、それは性質上曖昧であってトラブルのもとになりかねないので注意してもらいたい。
更新料として賃料の1ヶ月分を請求するということを特約で明記していれば有効であると認められると述べた。しかし、更新料を支払わなければ契約更新を認めないという特約は無効とされる。なぜならば、法定更新の道を閉ざすことになるためである。
紛争パターンはいくつかある。テナント側の契約違反、賃料不払、賃料改定、契約終了時の処理などである。
オーナーはトラブルに直面した時に何らかの判断を下さなければならない。まず、契約解除について説明しよう。例えば、契約解除できないような情況で裁判を起こしたところで負けてしまうのが関の山である。裁判中はろくに家賃も入らない状態で最終的に裁判に負けてしまうというのでは困る。
テナントが契約違反したとしても無条件に契約解除できるわけではない。テナントが契約違反した場合には、まずそのまま契約を継続するか打ち切るかの結論を出す必要がある。もし、契約を継続するのであれば、テナントに対して再発を防止するために相手方から念書を取るなどしておく。それでも、相手方が契約違反を繰り返すというのであれば、それは重大な違反行為と見なされ、契約解除が認められることもある。
契約解除するという方向で進む場合は、契約解除に伴う明渡をしなければならない。明渡のための手段は法的手段しかない。例えば、民事調停や裁判である。
賃料に関するトラブルというのは、契約を継続するということを前提とし$F$$$k!#7@Ls$rBG$A@Z$k$3$H$rA0Ds$H$7$?K!E* 原状回復、金銭処理、明渡などは契約を打ち切ることを前提としているため、早く処理することに集中すべきである。例えば、明渡がなかなか完了しなければ、それだけ赤字が増えるだけである。 いくつかのトラブルのパターンに応じて、基本的な方針決定を素早くするということがトラブルを対処するにあたって大切である。特に神経を使う判断は、契約解除できるかどうかの判断と言える。この判断を誤ると後々厄介なことになる。方針決定は非常に重要なポイントとなるので弁護士に相談するなどして対処してもらいたい。方針が決定すれば、それを速やかに実行してもらいたい。 ビルの管理者はオーナーとテナントとの接点に位置している。ビル管理者は日頃から正確な情報の収集をしておく必要がある。テナント側の事情というのは分からないことが多い。まして、オーナーが日頃からテナントに接していなければテナントの情況など理解できない。やはり、テナントと接するビル管理者が正確な情報を収集してオーナー側の方針決定に役立つ資料を提出できるようにしておきたい。 ホーム
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